「素敵ね、あの五十鈴さんという子。さしずめ、あなたのマーヴィン・バンターといったところかしら」
笑顔を返したけれど、わたしはそれは違うと思っていた。セイヤーズは読んでいたけれど、五十鈴はバンターよりも、もっと……。
「玉野五十鈴の誉れ」(『儚い羊たちの祝宴』米澤穂信 新潮社)p.170
「わ、わたし、わたしは。あなたはわたしの、ジーヴスだと思っていたのに」
暗い夜のせいで見間違えたのだろうか。ほんの少し、五十鈴の表情が動いた気がした。
「勘違いなさっては困ります。わたくしはあくまで、小栗家のイズレイル・ガウです」
「玉野五十鈴の誉れ」(『儚い羊たちの祝宴』米澤穂信 新潮社)p.181