引用
ハイスミスはまた、執筆を始める前に強い酒を飲む習慣があった。ウィルソンによると、それは「元気を出すためではなく、躁状態といえるほど高まったエネルギーを抑制するため」だった。晩年には毎日、大量の酒を飲むようになっていたが、アルコールには強か…
「蜂は好きかい?」 「好きかどうか考えたことない」 「考えた方がいい。アインシュタインは蜂がいなくなったら人類は4年で絶滅すると言った」 「酸素がなくなったら人類は4分で絶滅してしまう。でも空気は好きにはならない」 「そうだな。ははは」 「ブリッ…
そんなある日のこと。前任者から引き継いだ執筆者に理不尽な怒られ方をして肩を落としていると、中原さんがいった。 「あなたが編集者なのだから、あなたが仕事をしたい人とすればいいのよ」 え、そうなのか、とびっくりした。雑誌はあくまでも編集者のもの…
P・D・ジェイムズに山口雅也がインタビューした話。 私はジェイムズ宅を訪れ、インタビューを試みたことがあるが、「イギリスはなぜ優れた女性ミステリ作家を多く輩出するのか?」という質問に対し、元々ジェーン・オースティンなどの女性作家の伝統があると…
−−長篇SFを書く秘訣は? 「短篇のラストに”つづく”と書く」 『星新一 一〇〇一話をつくった人』(最相葉月 新潮社 p.320)星新一 一〇〇一話をつくった人作者:最相 葉月メディア: 単行本
「サブロー君、人は病気や事故で亡くなるんじゃないそうです。人は寿命で亡くなるそうです」 『いねむり先生』(伊集院静 集英社)p.198いねむり先生 (集英社文庫)作者:伊集院 静発売日: 2013/08/21メディア: 文庫
「テレビゲームというのも面白そうですね」 「なさるのですか」 「いや、したことはありませんが、あれでいろいろ工夫がいるらしいですね」 「一人で遊んで面白いんですかね」 「うん。遊びは一人遊びが基本でしょうが、あれは一人遊びじゃないのでしょう」 …
有益な情報を抽出するためのプロセスは、コーヒー豆からコーヒーを作るのに似ている。まず、コーヒー豆を粉状にする作業(第一のプロセス)。次に、フィルターをかけ、お湯を注ぐ作業(第二のプロセス)。まったく異なる二つのプロセスを通す事によって、抽…
一九七〇年代のはじめ、大型旅客機ボーイング727は運行を開始したばかりで、それは今日われわれが知っているような家畜運搬車ではなかった。 『遥かなる航跡』(リシャール・コラス 集英社文庫)p.81遥かなる航跡 (集英社文庫)作者:リシャール・コラス発…
会社の就業規則というのはだいたいが過失をしないように書かれているものが多いから、守るのが面倒臭い。だから最大限に拡大解釈することがうまくやっていくコツでもある。今は知らないが、かつてのソニーの就業規則に”酒気を帯びて構内に入ってはならない”…
かつて盛田は満場一致で議決されるものぐらい不純なものはないと言った。誰もが反対しないものは決して常識の域を出ないものだし、それを是とする人の動機は不純であると考えていた。 『ビジネスマンのための「個性」育成術』(黒木康夫 生活人新書 NHK出版…
戦争がなくならないのは若者も年寄りもみんなそれが好きだからだ。戦った者も戦わなかった者も。 『ブラッド・メリディアン』(コーマック・マッカーシー 黒原敏行訳 早川書房)p.316ブラッド・メリディアン作者:コーマック・マッカーシー発売日: 2009/12/18…
レオは梯子を降りはじめた。梯子の横桟は氷のように冷たく、素手で握ると皮膚が鉄に貼りついた。一段降りるごとに皮が裂けはじめた。(中略)レオは歯を食いしばって痛みをこらえた。手のひらの皮のあちこちが裂けて血が出てきた。目からは涙が出た。下を見…
書いていて涙が止まりません。私は本物の作家ではないのです。本物の作家というのは泣いたりしません。 『通訳ダニエル・シュタイン』下(リュドミラ・ウリツカヤ 前田和泉訳 新潮社)p.313通訳ダニエル・シュタイン(上) (新潮クレスト・ブックス)作者:リュド…
だが世の中には、被尋問者の言葉一つひとつの裏づけを取らなくては気がすまない人種もいれば、家に帰るとき、歩道の敷石の隙間を踏まないように歩かなくては気がすまない人種だっている。 『スリーピング・ドール』(ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋)p.3…
それでも、自尊心を満足させることもできず、みじめさの中に生きているだけでも生きているといえるのかどうか。自分のしたことにはなんらかの目的があったとさえ思えない人生が、人生といえるのかどうか。 『チャイルド44 下』(トム・ロブ・スミス 新潮文庫…
病院のER(緊急救命室)の同僚が言うには、動物の意識には過去も未来もなく、あるのはただ現在だけだという。そして人間も熱い風呂に漬かりながらマティーニを五杯飲めば、それに近い状態になれるんだそうだ。つまりは土曜の夜の状態ってことだ。それ以外の…
世界は有限で思っているほど広くはない。誰でも六つのコネクション・リンクをたどれば、米国大統領にさえたどりつけるという話を聞いたことがある 『イノセント・ゲリラの祝祭』(海堂尊 宝島社)p.234新装版 イノセント・ゲリラの祝祭【電子特典付き】 (宝…
無能には二通りある。害悪になる無能と、役に立つ無能さ。前者がバカで後者がアホ。 『イノセント・ゲリラの祝祭』(海堂尊 宝島社)p.224新装版 イノセント・ゲリラの祝祭【電子特典付き】 (宝島社文庫)作者:海堂尊発売日: 2019/05/31メディア: Kindle版
これが何を意味しているのか、あるいは何を意味する可能性があるのか、さっぱりわからない。しかし、これに何らかの意味があることは確かだ。そういう状況に陥ったときには、昔の成功、それも同様の難問を解明したときのことを振り返って、頭を再活性化する…
愛してもいない相手にもらった愛情は心の表面に留まり、そこからすぐに蒸発してしまうものなのだ。 『素数たちの孤独』(パオロ・ジョルダーノ 早川書房)p.310素数たちの孤独 (ハヤカワepi文庫)作者:パオロ ジョルダーノ発売日: 2013/06/06メディア: 文庫
自分の観察以外に頼れるものなんてないはずだ。自分が受け止めたもの、それが世界のすべて、現実のすべてじゃないか。 『トーマの心臓』(森博嗣 メディアファクトリー)p.243トーマの心臓 Lost heart for Thoma (MF文庫ダ・ヴィンチ)作者:森 博嗣発売日: 20…
「待って。もうひとつだけ訊かせて」 君はまるでコロンボみたいだと少女は言って、どこかへ翻しかけた動作を中断させる。ターンの先でもあのオンボロ刑事の伝説が生き残っていることを僕は知る。まあもとは天使だったというのだから、そういうこともあるのか…
朝というのは、あらゆる感情をことごとく幻滅させてしまう、どんな思考もすべて打ち砕いてしまう、暴君の時間なのだ。 『トーマの心臓』(森博嗣 メディアファクトリー)p.8トーマの心臓 Lost heart for Thoma (MF文庫ダ・ヴィンチ)作者:森 博嗣発売日: 2014…
「ネットで、おまえの悪口を時々、見るけど」 「悪口はネットで言うのがマナーなんだって」 『モダンタイムス』(伊坂幸太郎 講談社)p.146モダンタイムス(下) (講談社文庫)作者:伊坂 幸太郎発売日: 2011/10/14メディア: 文庫モダンタイムス(上) (講談社文…
「『地獄の警備員』って知ってます?」工藤がぼそっと言う。「やっぱり、二十世紀の映画らしいんですけどね、五反田さん、それをやけに気にいっていたんですよ。元力士の警備員が人を殺し回る話みたいですけど。その怖い警備員が言うらしくて」 「『おまえを…
「俺の家の近くの回転寿司は、わさびも回転させるっていうんで、画期的、って謳ってたぞ。画期的というのは、言ったもんがちだ」 『モダンタイムス』(伊坂幸太郎 講談社)p.22モダンタイムス(下) (講談社文庫)作者:伊坂幸太郎発売日: 2012/09/28メディア:…
細部はよろしい。神は全体構成に宿る。 『Boy's Surface』(円城塔 早川書房)p.46Boy’s Surface作者:円城 塔発売日: 2013/11/15メディア: Kindle版
生も亦我が欲する所なり、義も亦我が欲する所なり。二つの者兼ぬること得べからざれば、生を舎てて義を取らん。 『孟子』下(岩波文庫) p.249
新一は、ブラウン神父シリーズで知られるイギリスの推理作家チェスタートンの「すばらしい冗談は、批評の不可能な、一つの究極の神聖なものである」という言葉が大のお気に入りだった。 『星新一 一〇〇一話をつくった人』(最相葉月 新潮社)p.288