何かがやってくる予感がする。それは恋ではない。恋ならもうしている。そう、恋はしていた。あの頃、恋をするという絶望的な欲求があったからだ。恋をしたいと感じたら、行く場所に注意しないといけない。その秘薬を飲んだが最後、最初に出会った生き物に恋をしてしまうことになるからで、、それはカモノハシかもしれないのだ。
 あの頃、自分に恋の必要を感じていたのは、その直前に肝臓と心臓を労って酒を飲むのをやめたからだ。新たな恋愛は禁酒を解くための格好の動機となる。誰かと一緒にバーへ行く。胸が熱くなる。

フーコーの振り子』上(ウンベルト・エーコ 藤村昌昭訳 文春文庫)p.399