『女帝 小池百合子』石井妙子

女帝 小池百合子 』を読む。

小池百合子の生い立ちから現在までを取材し、彼女の本質が何かを明らかにしようとする。

冒頭、自分を特定されないようにしほしいと訴える人物のことが書かれる。本書の中で知られざる小池百合子の過去を多く語る、カイロ時代に小池百合子と同居したという人物のことだ。彼女について語ることを極度に恐れ、本書でも仮名で登場する。ノンフィクションは多くの記録や証言の綿密な取材によって組み立てあげられるものなので、重要な証言者が匿名というのは弱いと思う。

本書は小池百合子のカイロ時代が一つの売りだと思うが、中盤以降はニュースキャスターになり、政治家へと転身して行く様子が中心になる。これらの証言者はもちろん匿名ではないし、新聞やインタビュー記事、書籍で確認できる事実で積み上げられている。都知事選出馬や豊洲移転問題などはわざわざ資料にあたらなくても記憶に新しい。それらの出来事を当時知っていてもその時々の断面として見ていたことに気づく。本書のように時系列で描かれると小池百合子の主張がころころ変わっていく様子がはっきりわかって恐ろしくなってくる。環境大臣時代の水俣病問題、アスベスト問題での対応などは特にひどい。そういえば本書が出版されたとき、怖い、恐ろしいという表現をよく聞いた記憶があるがそういうことかと思う。

現在の新型コロナに対する対応、会見に専門家を同席させる一方、東京アラートとか標語のプレート提示などの空疎な対策、終息が見えない段階でありながらオリンピックの中止はないと断言するなどの行動が、本書を読むといちいち腑に落ちる。

小池百合子は本書について質問されて「読み物」と一刀両断したが、むしろ「読み物」であってほしいと思えた。 

女帝 小池百合子 (文春e-book)

女帝 小池百合子 (文春e-book)