必然性

チェーホフがこう言っている」とタマルもゆっくり立ち上りながら言った。「物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない、と」「どういう意味?」
 タマルは青豆の正面に向き合うように立って言った。彼の方がほんの数センチだけ背が高かった。「物語の中に、必然性のない小道具は持ち出すなということだよ。もしそこに拳銃が出てくれば、それは話のどこかで発射される必要がある。無駄な装飾をそぎ落とした小説を書くことをチェーホフは好んだ」

1Q84』BOOK2(村上春樹 新潮社)p.33