抗がん剤は毒か

 髪が抜けるのは、抗がん剤が、細胞分裂の速い髪にも影響を与え得るからだ。がんは、細胞が異常に速い分裂を起こす病気だが、この分裂を抑制する薬が、細胞分裂の比較的速い髪や、骨髄や、腸壁にも作用することがある。髪が抜けたり、骨髄の働きがにぶって抵抗力が落ちたり、下痢や吐き気が起きたりするかもしれないのは、そのせいだ。
 日本ではよく「抗がん剤は毒だから、がんをやっつけるけれども、健康な細胞も殺す」という説明を聞かされたが、患者は「毒だ」という説明より「分裂の速い細胞に作用するけれど、治療が終われば髪や骨髄や腸壁は回復する」といってもらったほうが安心するのではないだろうか。

『ニューヨークでがんと生きる』(千葉敦子 文春文庫)p.94

 抗がん剤ががんだけでなく健康な細胞にも影響を与えるという話を僕も聞いていたが、なるほど細胞分裂の速い部分に影響があると聞くと納得いく。そういう説明って重要なのではないかと思うが、いまだに意外とされていないのかもしれない。