芸術家のピーク

 ありがたいことに芸術家のピークは、人それぞれまったく違っている。たとえばドストエフスキーは六十年の人生の最後の数年間に『悪霊』と『カラマーゾフの兄弟』という、もっとも重要な意味を持つふたつの長編小説を書いた。ドメニコ・スカルラティは生涯に五百五十五曲の鍵盤用ソナタを作曲したが、その大部分を五十七歳から六十二歳のあいだに書き上げた

『走ることについて語るときに僕の語ること』(村上春樹 文藝春秋)p.24