パトリシア・ハイスミスの執筆前の習慣

 ハイスミスはまた、執筆を始める前に強い酒を飲む習慣があった。ウィルソンによると、それは「元気を出すためではなく、躁状態といえるほど高まったエネルギーを抑制するため」だった。晩年には毎日、大量の酒を飲むようになっていたが、アルコールには強かった。ベッドの脇にウォッカのボトルを置いて、目が覚めるとすぐそれを手にとり、その日飲んでもいい分量の印をつける。ハイスミスはまた、生涯を通じてチェーン・スモーカーで、香りの強いフランスタバコのゴロワーズを一日に一箱吸った。食べ物には無頓着で、ある知人の記憶では、「食事はアメリカ製ベーコンと目玉焼きとシリアルだけで、時間も不規則だった」という。

 

 

『天才たちの日課-クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々-』メイソン・カリー 金原瑞人・石田文子訳 フィルムアート社 p.31