小さなサークル

 わたしの本は、小さなサークルの人びとのためにだけ書かれたものである(もっとも、サークルと呼べれば、の話だけれども)。そうわたしがいったからといって、わたしは、そのサークルを人類のエリートだなどと、みなしているわけではない。ただわたしがいいたいのは、かれらこそ、わたしが顔をむけている人びとなのである。わたしが顔をむけるのは、(かれらが、その他の人たちよりも、すぐれている、またはおとっているからなのではなく)、かれらが、わたしの文化圏の住人だからである。ほかの人たちが、わたしにとっては異邦人であるとすれば、逆にかれらは、いわば祖国の同胞なのだ。

『反哲学的断章』(ヴィトゲンシュタイン 青土社)p.33

 ヴィトゲンシュタインの書いているものと僕の書いているものについて比較すべくもないが、誰のために書いているかという点ではまったく同感である。