ストーン・キャット

 欧州のある古い教会での話です。教会の神父が、野良猫を飼っていました。彼が祭壇の前でお祈りをするときも猫が彼に悪戯したりするため、お祈り中には猫を紐で祭壇の脚につなげるようにしました。
 やがてこの神父が亡くなり、二代目の神父がその猫を世話して同じようにお祈り中に祭壇の脚に猫をつなげるようにしていました。
 三代目の神父はいつも猫を祭壇の脚につなげる先輩神父のことを思い出し、自分も猫を飼って同じようにお祈り中に猫を祭壇の脚につなげていました。
 四代目の神父は、面倒臭がり屋で生きた猫ではなく石の猫を作り、祭壇の足の横に置くようにしました。そして、五代目の神父は、床に置かれている石の猫を邪魔だと思い、祭壇の上に置きました。
 そして六代目以降の神父たちは、常に石の猫に向かってお祈りをするようになり、いつのまにかこの教会ではあの石の猫は祭壇上の神聖なる存在になり、誰もその経緯を知りません。
 これがストーン・キャットの話です。我々人間は、いつもやっていることを神聖化する癖があります。長くやってきたことに対しては、必ず意味がると思い込んでしまいます。つまり、その時代や状況に応じてたまたまできた制度や仕組み、方法などをしばらく続けると、まるで神聖なルールのようになってしまい、誰もその存在理由と合理性を問わなくなります。

『やっぱり変だよ日本の営業』(宋文洲 日経BP企画)p.212〜213

新版 やっぱり変だよ日本の営業

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  • 作者:宋文洲
  • 発売日: 2014/04/11
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