「定着型」と「移動型」

 アメリカの性格分析学によると、人間は「定着型」と「移動型」とに分かれるという(『ニューヨーク・タイムズ』八四年四月三日付)。
 定着型の人は、世界を、意味のある人々や物から成る「オブジェクト」と見、それらが恐ろしい、空っぽな空間によって引き離されていると見る。こういうオブジェクトが危険な世界から自分を守ってくれると期待する。特別な人と一緒にいるときだけ安全と感じる。その特別な人にいつも時間をあけておくように要求する。この要求は当然かなえられないことが多いから欲求不満になる。いわなくても支えてくれ、いつも安心していたいと思う。さわるのが好き。安全だけが意味を持つ。去ることを恐れる。
 これに対し、移動型の人は、世界を親しみ深い広がりと見、そこに意味のある人々や物という危険なオブジェクトが点在していると見る。空っぽな空間を愛し、それを埋めるオブジェクトを恐れる。特別な人とのかかわり合い、たとえばべたべたした親しい関係を取り扱うことを恐れる。他人に頼らず成功する自分の能力に過剰な自信を持ち、助けを求めない。他人を信用せず、他人に関心を持たない。距離を保って眺めることを好む。自由だけが意味を持つ。とどまることを恐れる。
 ふつうの人はこの両方の性質を持っているが、どちらかに片寄りがちだと、この記事は書いている。私は、必要なときには助けを求めるし、信用できる人は信用するけれども、間違いなく移動型人間に属すると思う。

『「死への準備」日記』(千葉敦子 文春文庫)p.137〜138