数学者

 一般的に言って、数学者は用心深い人種である。
 たとえば、こんな話がある。天文学者と物理学者と数学者の3人が、連れだってスコットランドを汽車で旅していた。車窓の景色を眺めていると、農場の真ん中に1匹の黒いヒツジがいる。
「こいつは面白い!」天文学者が声をあげた。「スコットランドでは、ヒツジがみんな黒いのか!」
 物理学者がいくぶん驚きながら言った。「それは違う。スコットランドには黒いヒツジもいる、と言うべきだ」
 ところが、それすら早計な意見だ、とばかりに数学者が言った。
「2人とも違うな。スコットランドには少なくとも1匹、少なくとも片側の黒いヒツジがいる、と言わなくちゃ」

『数学はインドのロープ魔術を解く』p.125